束子ダイナミック

変なゲームと優しい物語が好きなブログ

数々のゲーム大賞にノミネート、ネビュラ&ヒューゴー賞W受賞?『Hades(ハデス)』の何がそんなに凄いのか

 2020年。その年のゲームオブザイヤー「The Game Awards」に、大作に混ざって見慣れぬ受賞タイトルがあった。その名を『Hades』という。その時点では日本語非対応だったこのゲーム、情報を見る限りではどうにも不思議だった。

youtu.be

 

「どう見ても最近よくある感じのローグライクアクションだけど、何がそんなに凄いわけ?」

 

 インディーゲームでも、見るからに斬新なものが入るのは分かる。だけどこういったローグライクは、インディーでは既に定番ジャンル。『ローグレガシー』『DeadCells』、アクションじゃないが『Slay the Spire』など、良作が今までもたくさんあったじゃないか。それらとこの『Hades』ってやつはどこに違いがあるのだろうか。

 2021年の9月になってようやく日本語版がリリースされたので、早速プレイを開始し……遅ればせながら一昨日スタッフロールを見ることができた。実際に遊べば遊ぶほど、評価の理由はよく分かった。

「バトル」「選択」「死」を基本とするシンプルなサイクル

 本作は、冥王神ハデスの息子であるザグレウスが冥界からの脱出、つまり「家出」を目指すゲームである。ゼウス、ポセイドン、アテネといったギリシア神話の神々から多彩な「功徳」を授かりながら、亡者が襲いくる冥界に挑んでいく。

 冥界のエリアは小さい部屋に分けられていて、部屋の敵を全て倒すと功徳やアイテム、体力アップといった部屋報酬を獲得。次の部屋に進める。

f:id:TowerSea255:20220306163225p:plain

功徳やパワーアップは、提示された三種の中から選択

 本作の美点はまずこの、バトルと選択の繰り返しで進む分かりやすさだ。パワーアップと次の部屋の選択肢も2つ~3つと多すぎず、どうすればいいか困ることがないので遊びやすい。プレイヤーがすべきことはただ選んで、暴れるだけである。

 奮戦の末に体力が尽きて死ぬと、冥界の最奥部にあるハデスの屋敷、つまり自分ちに帰されてしまう。繰り返し語られる<なんぴとも死からは逃れられぬ>という大原則は、神であっても例外はない。

f:id:TowerSea255:20220306162853p:plain

 死ぬと道中で得た功徳はリセットされてしまい、進行も最初からとなる。とはいえ一般的なローグライクに比べると恒久的なパワーアップ要素は多く、明らかに繰り返し死んで強化を重ねることを前提としている。また、屋敷に戻るたびに毎回必ず新しい会話が発生してストーリーが進む。

 つまり本作では死は単なる過失ではなく、進行に不可欠なものとして設計されているのだ。だから安心して死ねる、というと妙だが、特に慣れない序盤において、気軽に色々試したり肩の力を抜いて遊べるのは、取っつきやすさに大きく貢献している。

f:id:TowerSea255:20220307012600p:plain

 とにかく失敗に対して優しいゲームなのだ。それでももっと簡単にしたいという場合には、死ぬたびに耐久力が更に強化されるようになる「ゴッドモード」という選択肢も用意されている。

神々の力が飛び交う軽快バトルアクション

 肝心のバトルアクション部分にも抜かりはない。操作系はオーソドックスで、3種類の攻撃と回避がそれぞれ親指ボタンに割り当てられる形。手触りは軽快で、華やかなグラフィックと効果音は神々のパワーを存分に表現する。

f:id:TowerSea255:20220307232701j:plain

 敵の種類はそこそこだが、どいつも一度戦ったら忘れられないような個性的な……すごく嫌な攻撃を仕掛けてくる。慣れるほど上手に対処できるようになるので、対峙するたびに自分の成長を感じられる。

 武器は、初期装備の剣をはじめとして6種類が存在する。武器ごとにアクションは全く違うため、同じ敵を相手にしても立ち回りは全く変わってくる。それでいて覚えた敵の行動パターンは無駄にならないので、感覚としては『モンスターハンター』に近いものがある。ガンランスもびっくりのヘンテコ武器も登場するのでお楽しみに。

f:id:TowerSea255:20220307205047p:plain

ただしハクスラ的な素材集め要素はない

 アクション周りで一点だけケチを付けるなら、エフェクトが画面を覆いがちで、視認性にやや難がある点。特に攻撃の入り乱れる近接戦になると、何が被弾したのかよく見えなかったりする。とはいえ一発食らって即アウトというバランスでもないので、この見えにくさも近接戦闘のリスクとして受け入れられる範囲だとは思う。

ギリシア神話を「家族の物語」として再解釈したストーリー

f:id:TowerSea255:20220306224522p:plain

 ローグライクのストーリーには永遠の命題がある……「なぜ、何度も死にながら挑まなくてはならないのか?」という問いだ。本作におけるその答えは、わんぱく王子ザグレウスの家出チャレンジだ。つまりは親との確執が背景にある。

 本作の世界観はギリシア神話を下敷きとしているが、それは単に強くてカッコいいモチーフとしてではなく、普遍的な「家族の物語」としての側面から掘り起こされている。……そう、あのあまりにも壮大すぎる家系図だ。ギリシア神話の主要な神々はそのほとんどが何らかの血縁関係にあるとされていて、巨大な家族であるとも言える。

f:id:TowerSea255:20220305194424p:plain

神々みな家族(Wikimedia Commonsより抜粋)

 本作は、いわばそんなギリシア神話の現代版二次創作である。登場する神々は、原作での関係性やエピソードに忠実でありながら、現代人にも親しみやすいキャラクターとして再解釈されている。

 ザグレウスの脱出を手助けしてくれるオリュンポスの神々は、ザグレウスにとっては親戚のおじ、おば、いとこにあたる。そのため彼らはなんというか、正月にお年玉くれるみたいなノリで功徳を授けてくれる。

f:id:TowerSea255:20220307014412p:plain

 家出に失敗して家に帰れば、親父からは寂しがった飼い犬(もちろん地獄の番犬ケルベロスだ!)が暴れて家をめちゃくちゃにしただのと小言を言われる。重厚な見た目から繰り出されるのが、こういったほのぼのホームドラマなのである。そのギャップには思わず頬が緩むが、これは狙ったものだそう。

冷徹なストーリーが昨今の巷には多くあり、そのようなストーリーはやりたくないと感じました。残忍に見える設定で、じつは想像以上にほのぼのとしている、とプレイヤーをビックリさせたかったのです。

www.famitsu.com

 だが、ほのぼのしていることは、本作が扱うテーマが「軽い」こととイコールではない。軽口を叩いているのか、馬鹿にしているのか? 怒っているのか、心配しているのか? 家族というのはあまりに近すぎて、時にその境目は曖昧になる。その感じがよく出ている。

 話が進むにつれて物語はシリアスな側面も見せるようになるが、共通するのは本作が徹頭徹尾「家族の物語」であるということだ。致命的な溝がありながらも互いへの情を断ち切れないザグレウスとハデスの親子関係は、それを象徴していると言えるだろう。

f:id:TowerSea255:20220307212944p:plain

 この小さくて壮大な家族が、どういった結末を迎えるのか。それはゲームを遊んで確かめてもらいたい。

 ちなみに本作がW受賞したことで話題となったネビュラ賞ヒューゴー賞は「SF(小説)の賞」と紹介されることが多いが、どちらも「SF・ファンタジーの賞」なのだそう。それで言うと本作は「ファンタジー」の方であり、典型的なサイエンス・フィクション要素があるわけではないことは注釈しておく。

繰り返しプレイに耐えうる、組み合わせとシナジーの多彩さ

 さてこのゲーム、一回脱出に成功したらめでたくクリア、というわけではない。人によって大きく変わる部分かと思うが、自分の場合はクリアまでに失敗を含めて全部で50周近くを要した。ただし、一周は長くても一時間程度だ。

 こんなに遊んで飽きないのは、武器と功徳の無数の組み合わせを試し、意外なシナジーを見つける楽しみがあるからだ。このあたりはローグライクの王道な面白さをしっかりと踏襲している。

 先に武器は6種類と書いたが、脱出の道中で手に入る「ダイダロスの槌」による強化では攻撃の性質を大きく変化させることができる。さらに同じ武器種にも新たな形態が登場してくる。

f:id:TowerSea255:20220307214503g:plain

双拳キック!

 加えて、本作はアクションゲームなので、コマンド系ローグライクに比べて、プレイスタイルによって「強い組み合わせ」に差が出やすい。自分は連打・連射系武器にダメージアッパーな功徳を付けて敵を蹴散らすのがお気に入りだ。プレイングの幅は広く、自分なりの最強ビルドを探す楽しみもある。

 もちろんどのパワーアップが取れるかはランダム運に左右されるので、その場その場で「今回の最適解」を探り、時には苦手な立ち回りに挑戦することで目的を達成できることもある。このあたりは何回遊んでも悩ましく、緻密にバランスが練られていると感じる。

 クリアまでの道のりは遠く感じられることもあったが、結末には非常に満足感があった。ひとつヒントを言うなら、最後に登場するとある神はラスボス特攻的な性能を持つので、ラスボスに苦戦する場合は積極的に信仰するとよい。

何がそんなに凄いのか

 クリアまで遊んでみて、「よくある感じである」という最初の印象は大きく覆ることはなかった。個々の要素は飛びぬけて斬新とは言えないだろう。では結局、何が凄いのか?

 成長要素が多く、ローグライクアクションにしては取っつきやすい難易度であること。死に戻りのストレスを限界まで軽減したこと。軽快でテンポの良いアクション。家族をテーマにした普遍的な物語に、親しみやすいキャラクター。それから世界観を盛り上げる繊細なグラフィックと迫力あるサウンド、印象深い歌。

 何よりそれらが、いずれも高いレベルで親和性を発揮してまとまっているということ。

f:id:TowerSea255:20220307014824p:plain

 特に近年ナラティブというワードとともに注目されるゲームプレイと物語のシンクロが、「地獄から家出」というパワーワードひとつでスマートに表現されているのも光っている。

 つまり、本作はローグライクアクションというジャンルにおける一つの完成形であり、多くの人にとって過不足のない最大公約数なのだ。面白いローグライクアクションは数あれど、ここまで口当たりの良いものは確かに珍しい。それでいて、硬派な楽しみ方にもしっかり応えてくれる。このジャンルに馴染みのない人に薦めるならまずこれを候補に挙げるだろう。

 多くの人に注目されるゲームオブザイヤー。そこでは斬新さや新しさだけでなく、遊びやすさと完成度の高さもまた重要な指標とされているようだ。それはとても良いことだと思う。本作は確かに、そんな栄誉に相応しい作品であった。

 

▼ゲーム情報

  • プラットフォーム:PC/Xbox X|S ※GamePass対応(2022年3月現在)/Switch/PS4/PS5
  • プレイ時間:スタッフロールまで50~60時間程度
  • ツンデレライバル完備
  • 魚釣り要素あり

store.steampowered.com

www.xbox.com

store-jp.nintendo.com

www.playstation.com

 

▽関連記事

towersea255.hatenablog.com

towersea255.hatenablog.com