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戦術音楽ユニット「Walküre(ワルキューレ)」超入門~『マクロスΔ』は何故、五年経っても展開がとまらないのか?

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マクロスΔ(デルタ)』は、2016年春から放送された全2クールのTVアニメシリーズだ。1982年から続くマクロスシリーズの一本として作られ、放映終了後には早々にシリーズ新作品の制作が発表された。役目を終えたΔは、次の作品へとバトンを引き継ぐ……

……はずだったのだが、それから五年が経って2021年の今、マクロスΔはいまだに現役だ。それどころか、本日10月8日には劇場版完全新作の公開を迎えている。

その裏には、本作から生まれた音楽ユニット「Walküre(ワルキューレ)」の活躍があったワルキューレはいかにして作品の運命をねじ曲げ、これから何を成し遂げようとしているのだろうか?

この記事では、TVシリーズの放映から現在に至るまでのマクロスΔワルキューレの展開を追いかけながら、作品と並走してきたワルキューレによる「もう一つの物語」を伝えられればと思う。

ここ普段ゲームブログなんだけど、今日はゲームの話にはなりません!

以下、人名は全て敬称略とさせてもらいます。

TVアニメ『マクロスΔ』とは

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銀河辺境で流行する謎の奇病・ヴァールシンドロームその病を歌で鎮静化する力を持った戦術音楽ユニット「ワルキューレは、護衛のデルタ小隊とともに多くの星で活動を行っていた。

そんなワルキューレに憧れる少女フレイア・ヴィオンは、新メンバーオーディションを受けるべく故郷の惑星を飛び出した先で、類まれな操縦のセンスを持ちながらも無軌道な少年ハヤテ・インメルマンに出会う。

フレイアとハヤテがそれぞれワルキューレとデルタ小隊の新米として奮闘する中、とある小国がワルキューレの所属する新統合軍に対して宣戦布告したことをきっかけに、本格的な戦線が開かれることになるのだった。

マクロスシリーズではお馴染み、歌をバックにして可変戦闘機バルキリーでの空戦が行われるド派手な戦闘シーンに、主人公のパイロットを巡る三角関係。Δ独自の要素としては、歌姫が五人組ユニットなことや、敵国とその精鋭部隊「空中騎士団」を巡るドラマの存在がある。その過剰なほどの要素を24分に詰め込んだ第1話はとんでもないテンションになっているので、時間があったらこれだけでも見てみてほしい。掴みが完璧なので大体わかる。

本作最大の魅力は、物語とリンクした歌唱シーンの抜群の演出だろう。それを代表する、特に人気の高いエピソードが第十話「閃光のAXIA」だ。少しネタバレになるが紹介させてほしい。

デルタ小隊いちのエースパイロットであるメッサー・イーレフェルトは、かつてワルキューレのリーダー、カナメ・バッカニアに命を救われたことがあり、そのため長年彼女のガチ恋一番のファンであった。

倒れた仲間と襲い来る敵部隊を前に、特別な力を持たない自身の無力を嘆くカナメ。そこへ駆け付けたメッサーは、自分はずっとカナメの歌に救われてきた、だからこれから戦って死ぬかもしれない自分のために歌ってほしいと言い残して、敵のエースパイロットとの決戦に挑む。カナメは覚悟を決めて、メッサーが愛した歌を歌う。

主人公たちのエネルギッシュな物語と好対照な、先輩勢による哀しくも熱い挿話である。メッサーの運命は君自身の目で確かめてくれ!

このように強く印象に残るシーンもあるマクロスΔであるが、名作と言い切ってしまうのには迷いもある。2クールめの展開には停滞感があったり、展開に強引さがあったりして、個別のシーン単位では熱くて面白いのだが全体としては少しまとまりに欠ける……というのが個人的な意見だ。

こういう微妙に惜しい作品に挽回のチャンスが訪れることは滅多にないのだが、Δに限ってはあったのだ。その話はまた後ほど。

二つのワルキューレと、その音楽的魅力

ワルキューレ」はΔ作中に登場するユニットであると同時に、彼女たちに声を吹き込む声優・歌手で構成されたリアルユニットでもあるという二つの顔を持つ。いわゆる2.5次元ユニットである。

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ワルキューレの楽曲の魅力は、何といっても抜群の歌唱力と複雑なコーラスワークだ。五つのパートが複雑に絡みあってハモリ全開で歌われる楽曲は、アニソンという枠を外してもあまり類を見ない音楽性を持っている、と思う。

マクロスシリーズは代々歌に力を入れているが、Δでは五人組ユニットとしたことでハーモニーを前面に押し出した新しい表現が可能となった。

物語中で強調されるのは、ワルキューレ五人のチームとしての絆だ。だからこの音楽性もまた、ストーリーと強くリンクしていると言える。特に顕著なのが「Absolute 5」という曲で、これが歌われるのはTVシリーズの終盤、絶望的な状況で五人の絆が突破口を開いたという場面だ。アニメ未見の方もなんとなく想像して聴いていただきたい。

もうひとつの魅力は、そんな技巧派でありながら昭和歌謡を思わせる耳に残るメロディラインを持つことだ。「いけないボーダーライン」のようなキラーチューンは特にその傾向が強く、作品の世界観に合わせたテクノな音源の中で圧の強い生音が主張する、クールで熱い音作りともあいまって高い中毒性がある。

もちろん格好良い曲ばかりではなく、アイドルっぽいポップで可愛い楽曲もある。とはいえそこはマクロスなので、その乙女心は銀河スケールで表現されていたりする。例えば「不確定性☆COSMIC MOVEMENT」は、散りばめられた宇宙的ワードがSF心をくすぐる一曲だ。

ということで、一通り曲について紹介したところでメンバーの紹介をしよう。

作中随一のミステリアスな強キャラでもある美雲・ギンヌメールの歌を担当する歌手のJUNNAは、最初のシングル発売当時は14歳。それが先ほど貼った「いけないボーダーライン」でのメインボーカルなのだから驚きしかない。詳しくはネタバレになってしまうが、大人びていながら真っ直ぐな純粋さを持つ彼女の歌声は、美雲というキャラクターにある種のリアリティを与えてもいる。

マクロス歌姫オーディション」で選ばれた主人公フレイア・ヴィオン役の鈴木みのりも鬼才という他ない。どこまで意図してあて書きしたのかは定かではないが、元気でパワフルなムードメーカーの彼女はほとんどフレイアそのもののように見える。表現力豊かなミックスボイスは可愛さも切なさも、もっと複雑な感情も聴かせてくれる。

そんな大型新人二人を支えるのは、いずれも実績ある声優でありながら、現在はそれぞれソロ歌手としても活動する、演技と歌唱双方での実力派揃いの三人だ。

カナメ・バッカニアとそれを演じる安野希世乃は、作中においてもリアルユニットにおいてもリーダーであり、先述のエピソードに絡んで、特に作品との結びつきが強固なキャラである。その役どころにマッチした芯のある優しい歌声は、時にAメロのソロを歌い上げ、時にメインボーカルをコーラスで支える。文字通りワルキューレのハーモニーを表裏両面で支える「要」となっている。

クールなウィスパーボイスのレイナ・プラウラー役の東山奈央。そしてきゃぴきゃぴなキュートボイスのマキナ・中島役の西田望見は、全曲で特徴的なキャラボイスでの歌唱となっている。ワルキューレの楽曲が昭和歌謡的でありながら垢抜けたポップさを持ち合わせているのは、この二人の対照的な歌声によるところも大きいと思う。テクノポップとも相性抜群で、キュートだけどクール、甘すぎでも辛すぎでもないバランス感が心地いい。それでいて二人とも歌唱には非常に安定感があり、特徴的な声が驚くほど美しく重奏の中に溶け込んでいくのだから不思議だ。

当初は美雲とフレイアのツートップ+コーラス三人という構成だったのが、徐々に五人のハーモニーを重視した楽曲へとシフトしていったという経緯があるそうだが、それが物語展開とマッチしたのは偶然だったのだろうか。

また、生放送やライブなどを見ていると、この五人は本当に信頼しあっているように見える。マクロスという一大シリーズの顔となるニューヒロインとして、ストイックな実力主義のもとで選抜されたであろう五人は、その重圧の中で作中同様に連帯を深めていったのかもしれない。つまりマクロスヒロインという「借り物の空」の中で、ワルキューレという「五つで無限」の存在が作られていった……と言えるのではないだろうか?

ワルキューレはとまらない」~集大成のはずだった2ndライブ

TVシリーズの放映終了直後である2017年1月に開催されたのが、横浜アリーナで行われた2ndライブ「ワルキューレはとまらない」である。

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ワルキューレのライブは素直に凄いと思う。激しいダンスをこなしながら、複雑なハーモニーを生歌で聴かせてくれる。人間の肺活量って思ったよりも多かったことがわかる。バックバンドも生演奏でCD音源とは少し異なるアレンジになっているし、歌唱のテンションも高くてライブならではの音が聴ける。

ただ、この2ndのパフォーマンスに限って言えばそれだけではなく……異様に張り詰めた空気というか切実さのようなものが感じられた。我々観客は徐々に事情を察した。

ライブ内で発表されたのは、マクロスシリーズ新作品の制作決定の報だった

それはつまりΔの展開終了ということで、あくまでマクロスΔという作品に軸足を置いたユニットであるワルキューレの活動が、ここで一区切りとなることを意味する。これがワルキューレ単独でのラストライブになるであろうことを知っていたからこそ、彼女たちはメンバーひとりひとりの顔を見て歌ったし、涙も見せたのである。

そういう事情もあり、2ndライブはこの時この場所だけにある、素晴らしく美しいライブだった。でも……これだけの魅力を持ったユニットの活動が、本当にこれで終わりなんだろうか?

ライブの興奮冷めやらぬ中でそう思ったのは自分だけではなかった。この時アリーナを埋め尽くしていた多くのファン。ワルキューレのメンバー本人たち。そして他ならぬマクロスシリーズ総監督・河森正治もそのひとりだったと、後に知ることになる。

『激情のワルキューレ』~再編集劇場版で再始動したΔ

涙の2ndライブからおよそ7ヶ月後の2017年8月。新作品の発表(≒Δの展開終了)を事実上撤回する形で、マクロスΔ劇場版の制作決定が発表される。それが「ワルキューレの活躍に報いるため」の劇場版であることは、タイトルと内容からも明らかであった。

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2018年2月に劇場公開された『激情のワルキューレ』は、2時間の尺でTVシリーズ2クールの物語を最初から最後までさらってしまう。てんこ盛りだった要素の一部をバッサリと切り落とした大胆な再構成は、呆れるほど鮮やかで思い切ったものだった。

TV版はハヤテとフレイアのW主人公という趣だったが、『激情』の主人公はフレイア、そしてワルキューレである。それに伴い、もう一人の主人公であったハヤテを中心としたエピソードはそのほとんどがカットされた。総集編で主人公から外されるという世にも珍しいパターンである。気の毒に……。

とはいえ、彼は「フレイアのお兄ちゃん的存在で気になる男の子」という、割と美味しいポジションに収まっている。ある意味、この劇場版で最も新たな魅力を得たキャラと言えるかもしれない。

TVシリーズで描かれた、戦争の発端となった出来事もカットされているので、敵がなぜ戦争を仕掛けてくるのかが最後まであまりハッキリと言及されない。これについては作品としてギリギリのバランスだと思う。

さて、これらの変更がどう転んだかというと、個人的には大正解だったと思う。最初から最後までΔらしいハイテンションと熱量に満ちた劇場版となっている。

ワルキューレが与えたチャンスと、元々の魅力を最大限切り出すような思い切った再構成の結果、マクロスΔは名作といって差し支えない領域に達することができたのである。異論は認める。

また、この劇場版に合わせて3rdライブ「ワルキューレは裏切らない」が開催された。現実がアニメに追いついたかのようなムービングステージによるダイナミックな演出と、劇場版の展開になぞらえてか、限界に挑むかのような濃密セットリスト。2ndライブを別方向から超えてくる、魅力的なライブとなった。

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ワルキューレはあきらめない」~ワクチンライブの危機

『激情』からしばらく経った2018年9月。「完全新作のマクロスΔ劇場版」の制作決定が発表された。ついにここまでという感慨はあったが、新作ということは時間がかかるということでもある。翌年のシリーズ横断でのクロスオーバーライブや新作のタイトル発表などを挟みつつ、しばし大きな動きがない期間が続いた。

2020年5月に満を持して、劇場版イメージソング「未来はオンナのためにある」が発売。続く夏には久々のツアーライブが予定され、劇場版に向けて動き始めたワルキューレだったが、ここで大きな問題に直面した。新型コロナウイルスの流行である

最初の方に書いたが、作中ではワルキューレの歌は病を鎮静化する効果を持つとされる。そのためライブも病の発生を予防する「ワクチンライブ」であるという設定があり、リアルライブも「地球でのワクチンライブ」という体でずっと行われてきた。そういう遊びだった訳だが、これが現実の感染症の流行によって開催を危ぶまれるという皮肉な事態。

ライブは本当に予定通り開催できるのだろうか? 先行きが不透明な中、発表されたツアータイトルは……「ワルキューレはあきらめない」!

どう見てもこの事態に陥ったあとで付けたタイトルだ。なんという図太さか。

(10/10 追記)映画パンフを読んで驚いたのだが、後述する同名の楽曲の制作が2019年春からだったそうなので、「あきらめない」のワード自体は偶然だった模様。そんなことある!?

そして実際、ワルキューレ(とその運営スタッフ)はあきらめなかった。2020年のツアーそのものは結局中止になったものの、代わりに同日程で過去のライブ映像を再構成した「エアワルキューレ」を無料配信。その締めくくりとして、無観客の会場で収録した最新ライブ映像「エアワルキューレ プレミアム」を有料配信と話題を絶やさない。

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ワルキューレは地球でのライブ絶対諦めんよ!」という言葉が耳に残った。今もそうだが、ライブという娯楽を成立させることが突然難しくなってしまった。もしかすると、二度と同じようにはできないのかもしれない。そんな中で、形を変えてもできる限りのライブを届けようとする姿勢は、確かにこの時、それを見守る人たちの希望になったのである。

そして2021年には、会場キャパシティの半分まで人数制限をかけつつも、予定していたのと同じ会場でのライブツアーを実現してみせたのだ。

『絶対LIVE!!!!!!』~新作劇場版は5年ぶりの続編!

さて、ここからは現在進行形の話となる。ついにベールを脱ぐ新作劇場版『絶対LIVE!!!!!!』。主題歌挿入歌にソロ曲まで入った久しぶりのフルアルバムの発売も目前だ。

その主題歌のタイトルはというと……「ワルキューレはあきらめない」! 例のツアータイトルと同名の曲が、ここにきて新たに登場したのである。

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もはやどこまでが当初の構想で、どこからが後付けなのかサッパリ分からない。が、このライブ感は既にワルキューレの魅力の一部といってもいいかもしれない。

(10/10 追記)ということで、これも当初の予定通りだったようである。ただし本来はもう少し早く公開する予定だったようだ。

TVシリーズからおよそ5年ぶりとなる続きであり、しかもあれこれバッサリいってた『激情』の続きであろうこと、過去作キャラや「ヤミキューレ」なる新ユニットの登場が予告されていることなど、TVシリーズ以上の詰め込みっぷりが予想され、あれこれ気になることはあるものの、もうここまで来たら観るだけである。

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以上、駆け足だったが、マクロスΔワルキューレの五年間を振り返ってみた。

「とまらない」「裏切らない」を有言実行してきたワルキューレによる「あきらめない 何も譲らない」という力強い歌がもうすぐ劇場に響く。その時、きっとまた新たな伝説を作ってくれると信じている。

そして、この偉業の先でもワルキューレがまだ「とまらない」でいてくれるのなら、こんなに嬉しいことはない。もしこれで完結だったらこの記事なんなのってなるので、頼みますよホントに!

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追記①(2021/10/10)

観てきた! 確かに力強い映画だった。ありがとうワルキューレ!!!!!!

▼もう観た人向けにネタバレ感想も貼っときます。


追記②(2022/5/1)

ここから半年が過ぎ、劇場版、ニューアルバム、ライブを経ての続編記事を書きました。

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