自分が詳しい分野や実情をよく知っている業界がフィクションに登場すると、細かい間違いやディテール不足、あるいは誇張が気になってしょうがないというのはよくある話。
スマホゲーチョットクワシイを自称する自分も例外じゃなく、ゲーム開発をテーマにしたフィクションの八割方には乗り切れないものを感じている。それは必ずしも作者が門外漢だからとか取材不足に起因するのではなく、たとえ同じような仕事をしていても環境や立場で見えているものは違ったりするので、まぁなかなか難しいものですよね……
……と思っていたのだが、ここに来てゲーム開発が主題というわけでもない作品で見事なガチ描写があり、訳知り顔は引っ込めることになった。
ドラマ『トリリオンゲーム』第6話で滾々と語られたのは、次のような「スマホゲームヒット論」だ。
- スマホゲームの売り上げとは
- 「アクティブユーザー数×一人当たりの課金額」である
- つまりは「継続させること(ゲームとしての面白さ)」と「課金させること(買いたくなる商品)」の両輪を回す必要がある
- そこに強力な広告宣伝の力でユーザーという燃料を注ぎ込む
- ユーザーが課金する理由は
- 他のユーザーに勝ちたいと思うからだ(競争原理派)
- いや、遊んでいて心が揺れた瞬間があったからだ(体験派)
- 結局有名キャラをガチャに突っ込めば売れるんだよ!(射幸派)
- ゲームデザイン的な小技
- ユーザー有利なイレギュラー挙動はあえて残し「自分で見つけた」と思わせる
- リリース直後に超少額でお得な商品を仕込み、「最初の課金」のハードルをクリアさせる
いずれも基本的な考え方と言ってしまえばそれまでなのだが、なんせユーザーにじゃぶじゃぶ課金させようって話なのであまり大っぴらには語られないような内容だし、ぼんやりしたプロデューサーならこういう原則をうっかり忘れてて足下を掬われるなんてこともザラだ。スマホゲー開発で一発当てようって人間相手に語るヒット論として、かなり実践的でリアルな内容だと思う。
いきなりARPPUの話から入ったのでおおっと思い、お試し少額課金の話が出たところで取材の精度に感心するのを通り越して思わずコーヒーが気管に入ってしまった。
ここまで惜しみなく監修協力した売れっ子プロデューサーはどこの誰ですか!?
どこの誰だったか
この辺りの展開は原作にもあるようなのだが、とりあえずドラマのクレジットに載っていた監修協力者の名前で調べたところ、元・アカツキのプロデューサーとのことで大いに納得した。
アカツキといえば『ロマサガRS』や『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』の開発運営元。スマホゲーでもコンソールゲームと見紛うクオリティのグラフィックや手触りで殴るのが主流になったこの時代に、強力なIPキャラクターを武器に2Dイラストのガチャを回させて、ガン積みした育成要素でひたすら遊ばせてユーザーを離れさせない――というまさに劇中でやったようなレガシーなマネーゲームで今もランキング上位を戦い抜いているメーカーである。
大丈夫かアカツキ。機密流出してるぞ。
ていうか『トリリオンゲーム』が面白い
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驚きのあまり作品を紹介していなかった。『トリリオンゲーム』は、エンジニアとしての腕は確かだが要領の悪い主人公が、コミュ力お化けで世渡り上手な友人の誘いで一緒に起業し、二人で1兆ドル(トリリオンダラー)を稼ぐことを目指す!……という話。
何より素晴らしいのは、先のヒット論が単なる業界蘊蓄に終わらず、物語上の展開やテーマにがっつりと絡んでくるところだ。
以下、少しだけネタバレがあります。
特に展開と絡んでくるのがこの、
- つまりは「継続させること(ゲームとしての面白さ)」と「課金させること(買いたくなる商品)」の両輪を回す必要がある
という論で、売上よりも純粋な面白さを求めるゲーム開発チームと、お金大好きなプロデューサーの二者がどちらも欠かせないのだという結論を導くし、主人公二人がそれぞれの信念を貫くことで、中身とハッタリの両輪が揃って勝利を勝ち取ったという展開とも見事にリンクしている。
ちなみに現実では、この継続施策と課金施策の両輪が上手く回らないと「面白いけど課金するところがない」ので売り上げが上がらず、あるいは「課金圧ばっかりでストレスたまる」のでユーザー離れを起こし、結果早々にサ終、というよく見る光景になります。つくづく経済の縮図だなあ、スマホゲームってのは。
「ベンチャー企業がスマホゲー開発で一攫千金を狙う」という筋書きは(ソシャゲバブル全盛期ならいざ知らず)今やるには遅まきな展開だと最初は思ったのだが、大資本にものを言わせた広告に、もっと影響力の強い広告をぶつけることで凌駕するという、ここ数年の事情を反映した展開もあってよかった。広告で殴らないと箸にも棒にもかからない時代よ。
そして物語は情報発信をテーマにしたメディア編へと繋がっていくのだった……!
世界がどのような論理で動いているのか。その中でどのように裏をかき、どのように成り上がるのか? 経済というものと真っ向から対峙しようとする本作が、様々な業種の本音やジレンマを扱っていくのはある意味で必然でもあるけれど、フィクションの動力を借りて世界の姿を描こうとする試みはスリリングで目が離せない。こういう話が好きです。
ドラマ版はキャスティングも全員ハマってて良かったですね。日本のドラマはタレント役者ばかりと批判されがちだけど、こうやって演じる人の個性と役柄が化学反応を起こして面白いことになるパターンもあるので、一概に悪いとも言えないのよね。役者を美しく見せたいあまり、ヘアメイクが張り切りすぎていて違和感(冴えないキャラクターなのに小綺麗すぎる)が出ていることも多いけど、桐姫みたいな元からゴージャスなキャラだと映えること映えること。全体に日本のドラマの特徴と相性が良い原作だし、それを活かしきったなと思う。
なんか妙に見覚えある人がいるなぁと思ったら、声優の津田健次郎だった。
近々アニメ化もするとのことで、こっちはどうなるでしょうね。
*1:毎年夏に行われるゲーム開発者向け講演会。第一線のクリエイターが豊かな専門的知見を共有してくれるが、参加費が高い。