今は昔なる時 世界の中心に塔あり
人は皆 塔を目指し 塔を登る
ある者は宝を求め ある者は力を求める――
サガシリーズのオーケストラコンサート『Orchestral SaGa』が昨日(2021/7/31)開催されました。演奏が素晴らしかったのはもちろん、ゲーム音楽コンサートの見せ方として面白い部分もあったので紹介できればと。
本来有観客の予定が無観客のオンライン配信に変更されてしまったのだが、配信の良い点は終わった後からでもチケットを買ってアーカイブを視聴できる(8/8まで)ところだ。興味が湧いたら観てみるのもいいかと思います。
(8/28 追記)アーカイブ配信は終了したけど、11月にBDが出るとのこと。
ゲーム音楽コンサートに何を求める?
ゲーム音楽コンサートに必要なものとは何だろう。演奏だけあればよい? でも本当にそれだけで十分だろうか。
人はゲーム音楽を聴くとき、音楽単体ではなくそれに付随するゲームの思い出を一緒に聴いている。本来BGMであるゲーム音楽から、ゲーム体験は切り離せない。そうやって思い出を反芻する行為は純粋な音楽鑑賞とは言えないのかもしれないが、だからこそ強く感情を揺さぶるものがある。これはゲーム音楽に限った話ではなくて映画などの劇伴全般に言えることだが、ゲームが自分で操作するものである以上、結びつきはより強い傾向にあると言えるだろう。
加えてわざわざコンサートに足を運ぶくらいなのだから、観客は演奏されるタイトルの熱心なファンが大半だろう。だから、思い出をより鮮明によみがえらせる演出や、ファンサービス的な趣向はある程度求められていると思う。
定番の演出としてゲーム映像を一緒に流すものがあるが、これは意識が演奏から映像に引っ張られてしまうので好みの分かれるところでもある。今回の『Orchestral SaGa』では配信であることを活かして、ゲーム映像を別アングルとして選んで鑑賞できるようになっていた。丁寧に曲と場面を合わせていて気分を盛り上げてくれるのだが、バトルシーンでは勝てるのかどうなのか固唾をのんで見守ってしまったりもしたので一長一短である。
ファンイベントではなくコンサートなのだから、もっと純粋に演奏をじっくり聴くべきではないかという意見もあろう。個人的には、音楽こそが思い出を一番想起するのだから余計な演出などフヨウラ! という気持ちもなくはない。
前置きが長くなったが本題に入る。今回のコンサートでは「朗読」によって、オーケストラの持つ空気感や演奏そのものを妨げることなく、ゲームの世界をステージ上に持ってくることに成功しているのではないかと思ったのだ。
ゲームと現実を繋ぐ、詩人の語り
『ロマサガ』以降のサガシリーズには「詩人」というキャラクターが繰り返し登場する。別に同一人物というわけでもなく、ただ作中に吟遊詩人という存在があることが共通しているというだけの話だが、どの作品でも印象に残る使われ方をしており、象徴的な存在である。
『Orchestral SaGa』の構成は、
- タイトルの発売年順に演奏する
- 曲と曲の合間にタイトルごとの「詩人の語り」の朗読を挟む
というものだ。語りの内容はシリーズディレクターの河津秋敏氏による書き下ろしで、冒頭に引用したのがその一部。プロローグ的な作品世界の説明だけに止まらず、前日譚あり、独白あり、メタな表現ありと、実に多彩。本編を遊び尽くした人にとっても目新しい内容もあったようだ*1。
各作品のイメージアートをバックに語られる詩は、観客の頭の中から思い出を引っ張り出したり、作品を知らない観客にイメージを提供するだけではなく、今までと別の方向から光を当てながら作品をステージに上げているようである。
朗読を担当しているのは声優の杉田智和氏で、これがまた名演だった。熱量高めなサガファンであることで知られる氏は各タイトルのことを熟知してるようで、タイトルごとに異なった調子で書かれた語りを見事に演じ分けている。舞台に立つでもなく、声の出演一本という潔さも良い。
声もまた音による表現の一種である。演奏があり、歌があり、語りがある。これは自然なことのように思える。ファンサービスでもあり、雰囲気作りにも一役買っている。先ほど挙げたような課題が全て解決するソリューションで良いなーと思った次第です。
※この先、曲目などのネタバレがあります。
もう一人の詩人
そして本公演の「詩人というテーマ」は、このコンサートにおけるもう一つのサプライズの示唆でもあった。その前に『ロマンシングサガ ミンストレルソング(ミンサガ)』について軽く説明したい。
ミンサガは『ロマサガ1』のリメイク作品であり、「吟遊詩人の歌」というタイトル通り、原作にも存在していた詩人をよりフィーチャーした作品である。
そしてミンサガのテーマソングを歌っていたのが山崎まさよし氏である。本作のオープニングムービーにおいて、それはキャラクターである詩人が歌う歌として表現されていた。この曲『メヌエット』は、詩人の正体が正体であることと歌詞のシンクロ具合からまさに「詩人が歌っている」としか言いようのない名曲であり、「山崎まさよし≒詩人」というのはミンサガプレイヤーの共通認識だろうと思う。
それを忘れていた訳ではなかったのだが、まさか本人がここで歌ってくれるとは思わなかった。かなり驚いた。スケジュールの都合とのことで別撮りの歌映像にオーケストラ伴奏を生でつけるという形での出演だったものの、力強い歌唱とそれにピッタリ合った演奏はまるでその場で歌っているかのよう。これは配信になって逆に良かったところかもしれない。原曲の複雑なコード進行に、オーケストラの繊細なアレンジも非常に映えていた。「震える命がただ望むのは~」のあたりとか鳥肌たちますね。
年始にロマサガRSのCMでコラボした時に「いやもっと歌ってほしいな、メヌエット歌ってほしいよ」と思っていたので念願叶ってとても嬉しい。願わくば今後新作のテーマソングとか歌ってくれるとなお嬉しい。
ダイナミックな演奏
ここまで演奏の話をあまりしていなくて申し訳なかったのだが、今回はアレンジ・演奏共にオーケストラらしいダイナミックさが強くてかなり好みでした。MCで少し紹介されていたけど、アレンジャー情報ほしいですね。
ちなみに去年の2月にも『ロマンシングサガ オーケストラ祭』というのが開催されており、そちらは歌などがない「純粋なオーケストラコンサート」という趣だった。今回は演奏のニュアンスもそのときとは異なっていて、同じ原曲でもまた違った印象で楽しめた。
以下、先述の『メヌエット』以外で印象に残った曲目についていくつか感想を載せておきます。先に言っておくと『サガ フロンティア2』『アンリミテッド サガ』『インぺリアル サガ エクリプス』は遊んでなくてよく分かってないので除いています。しかしどの曲も良かったのでとても遊びたくなった……。
進化する戦い〜おいしくいただきます!
GB『サガ』三部作よりバトルメドレー。面白いのが最後の勝利BGM『Eat the meat』で、勝利を祝う底抜けの明るさが、いかにもクラシックっぽいコミカルさで表現されていて良い。こういうゲーム音楽的な表現とオーケストラ的な表現が一点で交わるポイント(これってオケに合うんだ!?)というのがたまにあるのがゲーム音楽コンサートの醍醐味だと思いますね。
2号が一番カッコいい!
『ロマンシング サガ』シリーズよりバトル2(ボス戦)メドレー。ヘェーラロロォーのフレーズで知られる『熱情の律動』、オケアレンジは初めて聴いたかもしれない。ストリングスのラロラロラロリィラロロが痺れるほど格好いい! 自分でも何を言っているのか分からなくなってきました。
領域(リージョン)への旅立ち
『サガ フロンティア』よりシステム画面からオープニングタイトルのメドレー。繋ぎ方がエモくて、絶賛プレイ中なので泣きそうになってしまった。考えてみれば、この曲は一体誰の曲なのか。サガフロの主役はあの8人(7人)なのか、それとも世界そのものなのかとか考えてしまう。
砕かれし星
『サガ スカーレットグレイス 緋色の野望』よりオープニング曲。ゲームのOPとしては重すぎるくらい壮大な曲だが、オケとの相性は抜群。野々村彩乃氏の歌にとにかく圧倒された。格好いい低音に美しい高音。こんな重厚なゲーソンなかなか無いですよ。
再生の絆〜Re;univerSe〜
『ロマンシング サガ リユニバース』のタイトル曲。弱肉強食のスマホゲーム界で好調のまま2.5周年を迎えた本作の語りをああやって締めるのはずるい。そういう意味でこの曲が流れることはある種の祈りでもあり、優しいメロディが沁みる。何度も何度も聴く機会のある曲で、聴くたびに好きになる気がします。
オーバーチュア~オープニングタイトル
アンコール曲。ミンサガバージョン。先日オリンピックの開会式で流れたのがこの『オープニングタイトル』。やっぱこれ聴かないと終われないよねって感じる。ファンファーレのきらびやかさとストリングスの美しさは高揚感を更にかき立てる。
最初の方で「ゲーム音楽からゲーム体験は切り離せない」と書いたけど、それは今現在のゲーム音楽コンサートにおける話。最終的に――何十年後かに――ゲームの文脈と切り離されて一つの楽曲として定番化するというのも、それはそれで素晴らしいことだと思うんですよね。オリンピックという巨大なイベントで、ゲームと無関係に多くの人の耳に触れたことは、そこに至る一歩だったのではないかと。この堂々たる演奏を聴いていると、そんな予感を感じました。
色々書いたけど一言でまとめると「すごい良かったからサガの曲好きな人みんな観てくれ!」です。また人が集まれるようになったら、生演奏でも聴きたいですね。
(8/4 追記)メディアのレポートが公開されたようです。セットリスト、アレンジャー情報、出演者コメントが掲載。
※アフィリエイトリンクなので気にする人は注意
*1:クリアしたのに知らない話があるのはサガ的には普通のことなので、自分レベルの知識では既出なのか判断つかないのだ!