束子ダイナミック

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鮮やかに重ねたループの先に、残ったものと残らないもの。アニメ『サマータイムレンダ』感想

タイムリープ/時間旅行という概念を用いた物語、その中でもとりわけループものと呼ばれるジャンルがある。主人公が何かのきっかけによって時間を遡る能力を得て、望まぬ未来を変えるために同じ時間を繰り返すことで奮闘する、といった類のものだ。

そんなループものの一つとして2022年にアニメ化された『サマータイムレンダ』。放送終了からいくらか経ってしまっているんだけど、先日完走して非常に面白かったので手短に紹介させてほしい。まずはあらすじから。

故郷の離島を離れて東京で暮らす網代慎平は、幼馴染である小舟 潮の訃報を聞いて島に帰ってくる。そこで直面したのは、島に伝わるドッペルゲンガーじみた「影」の伝承と、それによって潮が殺されたのではないかという疑惑だった。真相を確かめるべく行動を起こした慎平は「影」に殺され、気が付くと島に帰った初日のフェリーの上に「戻って」きていた――。

そんな感じで、伝奇サスペンス×ループものといった雰囲気の導入をもつ本作。少しネタバレになるかもしれないが、話が進むにつれてその色合いは少しずつ変わっていき、特に物語の折り返しあたりで大きくギアチェンジする。アニメ版だとこれが主題歌の切り替えタイミングと重なってバチバチに決まっていて、その演出に完全にやられてしまった。

だって一クールめOPのこの静かな不気味さから

youtu.be

二クールめでこれになるんですよ。静と動。鮮やかがすぎる。

youtu.be

ビジュアル面では、ヒロインの潮がほぼずっとスク水姿、というキッチュさが目を惹く。単に酔狂なのではなくて、しっかり設定に裏打ちされているのもポイント高い。可愛い妹的存在がいて謎めいたクールなお姉さんがいて、と周囲を固めるヒロイン陣も魅力的。ただ、この少年漫画らしいチャーミングな絵面は、2022年においては微妙に視聴者を限定してしまっているような気がしなくもなかった。原作の連載開始が2017年。この五年でアニメもゲームも、メジャーな作品ではお色気はすっかり息を潜めるようになった。基本的には良いことだと思うんだけど、もしかするとシリアス寄りの作品でこういった絵面が見られるのは本作あたりが最後になるのかもしれないと、そんな気もするね……。

そして本作、それはそれとしてループものとしてはかなりの本格派なのである。後述するがループもの・過去改変ものというのは派手な面白さを持つ一方で、物語構造的に大きなウィークポイントを抱えている。また時系列や因果関係の複雑さを扱いきれずに途中から大味になる作品も多い(破綻しないように、割り切って大味にまとめるのがセオリーであるとさえ言える)。そんな中で、これだけの規模のプロットを最後まで大きな矛盾なくやり切っているのは、凄いですよ。

ゲームブログとしては、その話の組み立てが妙にゲームっぽいところも気になるところ。ループを理解するや否やタイムスケジュールとフローチャートをまとめ出す主人公の思考はある意味「ゲーム脳」的でもある。また物語的にもゲームは重要なモチーフになっており、終盤の重要なシーンでとあるゲームが実名で登場するのもちょっと面白いので楽しみにしててください。

緻密に作りこまれた本格ループものとしての面白さと、少年漫画らしい華やかなキャラクターが織りなす勢いのある展開。この二つが綺麗に融合しているのが本作の魅力と言えるだろう。

あとはそうだな。個人的な好みなんだけど、例えば「何かが憑りついている」とか「中身が入れ替わっている」ような場面で「声は元のキャラなのに、喋りの調子だけで"中身"が別のキャラだと分からせる」演技を見るのが好きで。なんかこう声優演技の技巧の塊って感じがするじゃないですか。本作、「影」の設定の妙でそういった名演がたっぷり見られるのが嬉しかった。

放送中にはディズニープラスの独占配信だったが、今は各種配信サイトでの配信も始まってるので、よかったら。おすすめです。

summertime-anime.com

 

以下、最終話までのネタバレ感想。

最終話については自分の中でも賛否両論あった。ずっと「ループがあってももう救えない命もある」「ループが終われば潮とも別れることになる」という前提で進んでいただけに、肩すかしを食らったような感もある。幸せな結末を求めてループしてるはずなんだが、その過程で生まれた喪失や葛藤がなかったことになるのは物語そのものを否定することにならないか――ループもののジレンマですね。

しかし、これで後味は悪くなかった。話を聞いたひずるが本作の小説を書くというメタオチのニヤリ感。潮と慎平の二人にはしっかりループの記憶が残っていたというエクスキューズ。そしてあれだけ繰り返した三日間が日常の中であっという間に通り過ぎてしまう描写は、ループという静止した時間の終わりと青春ものとしてのほろ苦さを改めて思い出させてくれた。

時間をモチーフにしたタイムリープものは、青春ものと相性が良い。この組み合わせの開祖的存在がかの『時をかける少女』だろうが、無限のループを経て最終的にはそれを脱するという物語は、青春の有限性を引き立てる。

また、最終話にはもう一つの見方があると思う。本作ではループもののパラドックスを「無数の並行世界の中で主人公が観測したものが正史になる能力」という設定で乗り切ってるので、彼が観測(俯瞰)をしなくなって視聴者だけが見ているこの最終話は、実のところ物語世界的には「確定しない並行世界の可能性の一つ」という解釈もできるんじゃないだろうか。その中で一番幸せなものを見せてくれたということで、あれだけ頑張ってくれた彼らへの餞にはこんなハッピーエンドも相応しいんじゃない? と最終的には否側の自分にも納得していただいた。

最後に、ヒロイン勢の中では影澪が一番好きでした。純情なオリジナルの薄暗い本心をズバズバばらしていくダウナーなコピー。たまらんよ。「『そしたら私にもワンチャンある?』って聞いた?」は全視聴者が微妙に気になったであろうことを完全に代弁してくれた。

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……と、ここまで書いてきたような魅力については大体インタビューでも言及されていたので、意図を的確に伝える確かな技術に支えられた作品でもあったのだなぁと何度も頷いてしまった。

febri.jp