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写真を撮ることの意味を知るゲーム『ウムランギ ジェネレーション』レビュー&タウランガ観光案内

 普段、写真を撮っているだろうか。今はスマホもあることだし、ほとんどの人は何かしら撮る習慣があるんじゃないかと思う。
 ではその写真、どうして撮ったのだろう? 今日の記念に? 作品として? 感動したから? SNSに上げたいから?

美味しそうだから? ※これはスクショじゃないリアル写真です

 果たして人は何のために写真を撮るのだろうか? それが少しだけ分かるかもしれないゲームが『ウムランギ ジェネレーション』だ。

写真を撮ることに特化したゲーム

 『ウムランギ ジェネレーション』は、写真撮影ゲームだ……というより、ステージの中を歩き回って写真を撮ること以外はほとんど何もできないゲームと言ってもいい。

 その代わり、カラーフィルタや露出、彩度など細かくチューニングできる項目は異様に充実。今っぽいチルくてエモい写真を撮りまくることができる。

 こう聞くとマニアックで難しそうだと思うかもしれないが、これらのオプションは順を追って増えていくし、無理に使わなくちゃならないものでもないので、カメラ初心者でも心配はいらない。むしろ適当に撮ってもいい感じになるようにできている。

 ともかく、完全に写真撮影に特化したゲームなのである。シャッターを切る音やフィルムの巻き上げ音まで軽快で、撮る手応えが気持ちよい。Switch版では更に、ジャイロセンサーで直感的にカメラを構えられるらしい。

 ストーリーやキャラクターについて直接語られることは一切なく、ステージの中で目に映るものが全て、という割り切った作り。設定周りの直接的な情報はストアページの方が多いくらいだ。

 基本的には、指定されたフォトバウンティ(被写体リスト)を全て撮影することでステージクリアとなる。ステージは全部で8ステージ+DLCの追加4ステージ。

 移動スピードが速めで割に無茶な移動も可能なので、主観視点でバシバシと被写体を撃ち抜いていくような爽快感も感じられるだろう。それもこのゲームの一つの楽しみ方だ。

写真を撮ることで見えてくる意味

 だが、そうやって目標を撮るだけで済ませるには……この景色はちょっと美しすぎるのである。そしてゲームを進めていくと、「どうしてこうなった」としか言いようのない場面にも出くわすことになる。

 そんなとき、どうすればいいのか? ……撮ることだ。写真を撮るというたった一つのアクションで、あなたは芸術家にもなれるし、ジャーナリストにもなれる

 「何に注目して、どのように撮るか」。ゲームの進行には直接関係しないこれこそが、このゲームでプレイヤーに与えられた自由だ。その写真に写っているのはゲーム中の風景であると同時に、プレイヤー自身の興味や美意識でもある。

ぶら下がってる人を撮ってみたっていいのだ

 だから個人的には、初見では配達目標の10分は気にせずに、気になったものをどんどん撮っていくことをおすすめする。

 このゲームで撮った写真は、自動的にPCやゲーム機本体に保存されるようになっている。遊び終わったらアルバムを見てみよう。そこには自分がこの世界とどのように接したかが、写真という形で残っている。

 それはこの世界への理解を深めていく過程かもしれないし、どこまでも綺麗な赤い空かもしれないし、無意識にシャッターを切った一枚かもしれないし、慌ててノルマをこなしたピンボケ写真かもしれない。どれが正解ということもなく、それぞれの見た世界がそこにはある。

 ここでもう一度聞きたいが、その写真、どうして撮ったのだろうか。これってどんなゲームだったんだろう。答えはそれぞれにあることだろう。

 これは、どこまで行っても「写真を撮るだけ」のゲーム。ファインダー越しに何を見るかはあなた次第だ。

 

▼ゲーム情報

  • プラットフォーム:Switch / Xbox Series X|S, One, PC ※Xbox Game Pass対応(2022年6月現在)/ Steam
  • 価格:1,520円(本編のみ)、2,480円(スペシャルエディション)
  • プレイ時間:DLCまでで6~7時間くらい
  • ペンギンの友達:いる

playism.com

クリアした人向けのタウランガ観光案内(ネタバレあり)

 とはいえ、クリアして「で、結局作中のあれやこれって何だったの?」と思った人も多いだろう。何しろ説明がなんもない上、日本人にはあまり馴染みのない文化圏の話でもあるからだ。

 日本語の考察や解説もあまり見つからなかったので、ちょこちょこ調べて分かった範囲で補助線を引いてみたい。英語の落書きとかまではあまり細かく読めてないので、どちらかというとゲーム外の情報が中心になる。

タウランガとマオリ

 公式のゲーム紹介によると、ゲームの舞台となっているのは未来の「ニュージーランドのタウランガ市」だそうで、これは実在する土地である。ゲーム中に出てくるサイバーパンクシティとは似ても似つかない、海沿いの風光明媚なリゾート地だ。

 そして、ゲーム起動直後の言語選択画面の左上で異彩を放つ「Te Reo Māori」……「マオリ」は、ニュージーランド先住民族の言葉である。公式紹介文の最後には

で、ウムランギって何なんだよ?
ウムランギはマオリ語で赤い空って意味だ。

とある。タウランガは、8世紀頃にマオリ族が最初にニュージーランドに上陸した地とされており、ゆかりの深い場所だという。

ニュージーランド戦争

 ニュージーランドは19世紀にイギリスの植民地となる。この際、イギリス軍とマオリ族との間で土地の権利などを巡って激しい衝突があったとのこと。それだけが原因ではないようだが、結果としてマオリ族は急速に人口を減らしたという。

 海からやってくる侵略者に抗う人類、という構図に、入植者に抗う先住民族を重ねている面もあるのかもしれない。

各ステージについて

MauauView

 最初の撮影リストにある「マウアオ山(マウンガヌイ山)」はタウランガの代表的なスポットで、マオリ族の伝説に登場する山でもあるらしい。

 ストリートビューで見た感じ、周辺の建物も軒並み背が低く、ゲームのような高台や高層ビルはなさそう。当然ながら防護壁もない。

Otumoetai

 ゲームでは対イカ怪獣の最前線基地になっているOtumoetai(オチュモエタイ)。リアルの方はというと申し訳ないんだが、見た感じ何もない。うーん、ここが選ばれたのには何か理由があるんだろうか。

 ちなみに「侵略」のステージでロボットが立っているのも、位置的にこの場所に近いように思われる。

Kati Kati(ウォールドシティ)

 リアルのKati Kati(カティカティ)は「壁画の街」で、壁画や彫刻で有名とのこと。ゲーム中では「壁の街(=城塞都市)」ということで、巨大な壁面を利用したグラフィティが見られる。ステージのあちこちに置かれたスケッチもそれを意識してのものかも。

The Strand

 ゲームだと猥雑な繁華街という趣のThe Strand、実際は見晴らしのいい海辺の幹線道路だった。カフェなんかも多いらしく、ご飯屋さんやショッピングモールがあって賑やかそうである。分かりやすく言えば湘南平塚あたりの雰囲気というか……あの辺もいつかこうなるんだろうか。

Karangahake

 Karangahake(カランガハケ)はタウランガ市から少し離れた山あいの渓谷であるようだ。ゲームだと辺り一面が海なのだが、山は全部吹っ飛んだ設定なんだろうか。

 かつては金鉱山があり、ニュージーランド北部全域を繋ぐ鉄道路線が通っていたということで、これがステージのモデルだと思われる。カランガハケの路線は現在は一部区間を残して廃線になっており、廃線跡は鉄道橋やトンネルを巡るトレイルコースになっているそうで。

 ちなみにタウランガにも海上をどんと貫く「Matapihi Railwaybridge」という鉄道橋があり、見た目的にはこっちが近く感じる。これも混ざっているのかも。

Bowentown(ファイナルデリバリー)

 Bowentownはマウアイ山に向かい合うように位置する細長い半島で、ビーチやキャンプ場があった。

 ゲーム中ではそういったものはもはや跡形もなく、最後の写真を撮ることでゲームはエンディングを迎える。撮れるのは一枚だけ。何を切り取るのか、プレイヤーの視点が問われている。

位置関係はこんな感じ

 こうしてみると各ステージはタウランガの観光地を巡る構成になっているようで、本作には観光ゲーの側面もありそうだ。実在の場所がゴリゴリのサイバーパンクシティになっているという、日本でいうところの「ネオサイタマ」とか「第三新東京市」的なノリでもあるのかもしれない。

 ここからはクリア後ステージ。

GamersPalace

 追加ステージはどれも地下が舞台となっているようで、実在の場所は関係ないかと思う。地下都市を見下ろすダンスフロアは、金持ちの道楽なのか、庶民の最後の娯楽なのか……。

 出口に書かれた「I MISS YOU…」の落書きに哀愁を感じる。

Hanger

 本編最後にも登場したロボットの格納庫。本編でも薄々思っていたが、やはり『エヴァ』なのではこれ? という疑念が徐々に濃くなる。このゲーム、ニュージーランドエヴァンゲリオンだったのかもしれない。ペンギンの友達もいるし。

Sewer(=下水道)

 他のステージでも栽培されていた大麻と思しき植物が、ここでは大規模に栽培されている。状況から見て嗜好用ではなく鎮痛剤として使われてるのではないだろうか。

Protest(=抗議)

 DLCの最終ステージ「Protest」はこれまでのバウンティと異なり、写真の評価がお金ではなくシェア数で表される。抗議デモを撮影してSNSで世間に知らしめようという急進的な内容だ。

 例によって何のデモなのかははっきり言及されないのだが、手にした看板には「STOP KILLING US」とある。この戦いが多大な犠牲を払ってそうなのはこれまでのステージで見てきた通りだが、動員に何らかの不公平や搾取とか人命軽視があってそれに抗議している、というような感じだろうか。

 日本語のインタビューが無かったので英語のやつにも(機械翻訳で)いくつか目を通したのだが、開発者はマオリアボリジニなどの先住民族の問題だけでなく、黒人差別やファシズムなども含めた広義の民族弾圧について強く反対の意思を示しているようだ。あと環境破壊と植民地化にも。盛り沢山だな。

The Umurangi Generation is Asking You To Care | by Celia Lewis | Vista Magazine | Medium

Interview: Umurangi Generation's Developer On Fascism, Colonisation, And Donald Trump

Talking Climate Change And Maōri Culture With Umurangi Generation - The Indie Game Website

Interview: Naphtali Faulkner on developing indie smash 'Umurangi Generation'

 このシーンに関してはその気分が先走っているような気もする。それが良いことなのか悪いことなのかは何とも言えないが……本作に限った話ではなく、ゲームは今やこういった主張の媒体ともなり得るということである。

そう言われると、これも何か意味深

 若者のたまり場、未来都市、侵略、戦争、デモ……ここまで来ても結局、写真を撮ることしかしていないのだ。それだけで、ずいぶん遠いところまで来てしまったようだ。

 

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