束子ダイナミック

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高圧洗浄機シミュ『パワーウォッシュ シミュレーター』に見る"ゲームの面白さ"の複雑怪奇

 ゲーパスのラインナップ入りしたときに少し気になっていた『パワーウォッシュ シミュレーター』。ざっくり言うと、ドロッドロに汚れた車や家を高圧洗浄機でピカピカにしてスッキリ! みたいなゲームだ。

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 シミュレーターというジャンルを楽しむには、シミュレーションの対象そのものに面白さを見出せるかどうかが何より重要だろう。

 最初に1時間くらい高圧洗浄機を振り回す労働をこなした結果……「これは自分向きのゲームではないな」とはっきり悟った。汚れが落ちる気持ち良さや達成感も確かにあるが、チマチマした操作の単調さや、やたらと広い清掃面積の途方もなさ、残った汚れを血眼で探すストレスが勝っているんじゃないか。

 でもこれシミュレーターだからね。これは「そこが面白いんだ!」という人のためのもの。こればっかりは仕方がない。

 

 

 ――それからおよそ10時間後。

 ノズル交換のごとく素早い手のひら返し。何故かと言われると自分でもよく分からない。遊んでいるうちに面白くなってきたというわけでもなく、相変わらず単調だし、敷地はどこまでも広いし、汚れ残りの判定厳しいし、そんなには楽しくない。

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 それでも何かが、パワーウォッシャーたちを惹きつけて離さないのだ。それは一体何なのだろう。

面白さという命題

 いきなり話が逸れるが、ゲームの面白さというのは実に複雑だ。リスクとリターン。カタルシス。知恵比べ。効率。競争。偶然。模倣。眩暈。賢い人によってさまざまに言語化され体系化されているが、それでも到底すべての面白さを説明できない。

 様々な遊びの要素を山盛りにした足し算の面白さもあれば、必要最低限の要素でテーマを際立たせるような引き算の面白さもある。古今東西のゲームは面白さという命題と向き合い、より高みへと手を伸ばしてきた。梯子をかけて高所の汚れにノズルを伸ばすように。

 だがこのゲームはそうではない。シミュレーターだからだ。シミュレーターは必ずしも面白さだけを狙って作られてはいない。現実の事象の再現に重きが置かれている場合、ゲームとしての面白さやストレスの軽減は二の次となる。

 だが……むしろ意図していないからこそ、とにかく面白くすることを前提に設計された大半のゲームとは違う部類の「面白さ」が偶発的に出現してしまう――ということもあり得るのではないか。大量の高圧水と一緒にいったい何が漏れ出てしまっているのか、一つずつ見ていきたい。

魅力① 爽やかなビジュアルとサウンド

 見ての通りだが、水をばらまくゲームなのでルックスは非常に爽やかである。噴きつけられる水の質感や、少しずつ汚れが落ちていく様子といったビジュアル面だけでなく、ジャコーという水音もなかなか風流だ。精密に再現された水しぶきは、まだまだ暑さの残る夏の終わりを彩ってくれる。高圧洗浄の気持ち良さの再現へのこだわりのなせる業だろう。

 どのステージもそこらじゅうが信じられないほど汚れており、高圧洗浄水を浴びせることで(一気に、とはいかないことも多いのだが)つるりと綺麗になる。洗浄後はこの通り、神々しいほどの輝きを放つこともあり、これにはちょっと感動してしまった。

魅力② シンプルで明瞭な目標

 このゲームでするべきなのは、目の前にある全ての汚れを落とすことだけだ。実にシンプル。それだけに単調でもあるのだが、そこはプレイヤーの工夫のしどころだ。

 音楽をかけるというのは単純作業をこなすための常套手段だが、間に思考が必要な作業が挟まる場合にはノイズになってしまうこともある。だが、このゲームでは考える必要は全くないので遠慮なくかけよう。

 ゲーム中は環境音のみで最初からBGMがないので、これはもう「好きな曲をかけてくれ!」というメッセージだろう。私はフォール・アウト・ボーイで行く。

 ごく当たり前のことだが、掃除をするのは生活空間を清潔にするためである。これで遊んでも生活空間は一ミリも綺麗にならない。だからそんなふうに工夫をしてまで遊ぶ理由があるかと問われると明らかにNOなのだが……でも、こうして音楽と水音を同時に浴びていると悪くない気分になる。こういうちょっとした工夫に少しだけ幸せを感じるのが人間の習性だからだ。

魅力③ 無意味さ

 水をぶちまけるのは気持ちいいし、明確な目標もある、それでも、ああ、ここは一人で掃除するにはあまりにも広すぎる! やっぱりやっぱり面倒くさい!

 だが、せっかくここまで綺麗にしたのに、残りを中途半端にしておくのは気持ち悪いではないか。そう思うと、意地になってステージクリアまで粘ってしまう。

 ステージクリアすると何が残るのか? 何も残りません。人生のようなものです。達成感というにも小さすぎて、ちょっとスッキリするくらいのもの。圧倒的な無意味がここにある。

 無意味がどうして魅力になるのか。このゲームから得るものは特にないことは最初から分かりきっている。だからこそ何も学び取る必要もないわけである。

 仕事や学業における熾烈な競争の中で「常に何かを吸収して成長しなくてはならない」というような意識の高さを内面化してしまってる人も多いことだろう。このゲームを遊んでいる間だけは何も吸収する必要はない。だって放出してるもんね、これだけの水を。ゆっくり休んでくれ、脳。

 そうこうしているうちに、今度はだんだんとゲームを止めるのが面倒になってくる。そうなればもはや、あなたの高圧洗浄を妨げるものは何もない。


 「面白いゲームを作る」という至上命題のもとで緻密に設計され、プレイヤーの感情を的確にコントロールして楽しませてくれる――そんなよく出来たゲームは確かに素晴らしい。でも、ゲームの面白さの深遠は、その外側にも果てしなく広がっている。たまには何も考えずに、きったねぇ壁に水圧を浴びせて何かを感じてみるのも乙なものではないだろうか。

 ……とは言ったものの、本作はゲームとしてのサイクルも比較的しっかりと組み立てられているようには感じた。洗浄の仕事が届いて、稼いだお金で高圧洗浄機をアップグレードしていく。マップのだだっ広さも、どちらかというとマルチプレイを前提としたもののような気もする。もしかして普通に面白いゲームなのでは? 最後までやってないのでよく分かりませんけど……。

 

▼ゲーム情報

  • プラットフォーム:Xbox One, X|S / PC ※GamePass対応(2022年9月現在)
    • (追記)PS4 / PS5 / Switchでも近日発売予定
  • 価格:2,970円
  • プレイ時間:満足するまで

powerwash-simulator.square-enix-games.com

……ページタイトルがシュミレータになってるぞ(小声)いつの間にか直ってた!

 

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